光ファイバーケーブルで地下構造を調べる

当センターで修士課程を修了した濱中さんと江本准教授が、熊本県内の国道3号の下に埋設された光ファイバーケーブルを利用して地下構造を推定した研究が論文として発表されました。


タイトル:Estimation of shallow structure along the Hinagu fault by applying seismic interferometry to DAS observations conducted along national route 3 in Kumamoto prefecture, Japan

著者:Satoru Hamanaka and Kentaro Emoto 

掲載誌:Earth, Planets and Space

出版日:2024年11月19日

リンク:https://doi.org/10.1186/s40623-024-02088-3


これは、濱中さんの修士論文を簡潔にまとめた論文です。

光ファイバーケーブルをセンサーに

図1 光ファイバーケーブルの位置

光ファイバーケーブルの中に光信号を入射させると、その光の一部がケーブル中の不純物などによって反射され戻ってきます。
光ファイバーケーブルに振動が加わり、ケーブルが伸びたり縮んだりすると、反射されて戻ってくる光のタイミングが変わります。この変化を観察することで、光ファイバーケーブルのある場所のわずかな変化(振動)を検出することができます。
これを原理を利用した振動観測はDAS(分布型音響計測)と呼ばれ、数年前から地震学の観測で用いられるようになってきました。

この研究では、国道3号沿いに敷設されていた既存の光ファイバーケーブルを利用させていただき、全長約40kmにわたり4m間隔の振動データを1ヶ月間記録しました(図1)。データ量は19TBとなり、地震観測の分野からすると非常に大きなサイズとなりました。特に、国道3号付近に存在する日奈久断層付近の構造を調べたいという目的がありました。

国道3号は九州の主要道路であるため、夜間でも交通量が多く、小さな地震による振動は、車の振動によってわからなかったり、ノイズの多い波形として記録されてしまいます(参考:設置時の記事)。

車の振動から地下構造を推定

人間には感じない程度ですが、地面は常に揺れています。この揺れから地面の中を伝わる地震波の情報を取り出す地震波干渉法と呼ばれる手法があります。今回の研究では、常に車によって揺らされている国道3号において地震波干渉法を適用することにしました。

ただし、車の通過によってよく揺れる場所や、場所による交通量の違いが影響して、通常の地震波干渉法では、「質のよい」地震波を取り出すことができませんでした。そのため、この取り出した「質の悪い」地震波に対して、さらに地震波干渉法を繰り返し適用することで、質の高い地震波を取り出すことに成功しました。

取り出した地震波の波長の違いの情報から、国道3号の地下における地震波伝播速度を推定しました。国道3号が氷川をまたぐ部分の地下構造を推定すると、氷川付近では地震波伝播速度が遅い部分が厚くなっていることがわかりました。これは、氷川の河川による堆積物が反映されているものだと考えられます(図2)。

このように、光ファイバーケーブルを用いてDAS観測を行うことで、空間的に非常に高密度な振動データを得ることができ、その下の構造を高解像度で推定できることが示されました。

DAS観測においては、国土交通省九州地方整備局熊本河川国道事務所および熊本維持出張所の方々に多大なご協力をいただきました。

図1 推定された地下構造。赤い部分は地震波伝播速度が遅い(やわらかい)ことを示している。