江本賢太郎准教授が佐藤春夫名誉教授(東北大)と一緒に執筆した本がCambridge University Pressから出版されました。
タイトル:Seismic Wave Propagation Through Random Media: Monte Carlo Simulation Based on the Radiative Transfer Theory
著者:Haruo Sato and Kentaro Emoto
出版社:Cambridge University Press
出版日:2024年11月14日
複雑な地震波形と地球の中の不均質
地震が発生すると、震源から地震波が放射されます。地球の中には、地震波が速く伝わる場所や遅く伝わる場所が複雑に混ざり合って存在しています。そのため、地震波は、震源から我々のところに届くまでに、さまざまに散乱され、異なる経路を通ってきた波が重なり合った状態で観測されることになります。例えば、地震計で記録される波形を見ると、主要な揺れの後に、だらだらと小さい揺れ(回り道してきた地震波)が長く続いている様子が確認できます。
地震学において、地震波は地球の中を照らす「光」の役割をして、我々はそのわずかな光から地球の内部構造を推定します。ただし、上述の地球内部の不均質構造によって、ぼやけて複雑な「光」しか見えないことが研究を難しくしています。
一方で、地震波の複雑さの特徴を丁寧に調べることで、地球の中の不均質の複雑さに関する情報を得ることができます。地球の中には、我々の観測網よりも細かいスケールの不均質構造も存在しているため、そのすべてを明らかにすることはできません。しかし、「どのくらいのサイズ分布で?」「どの程度の強さで?」不均質が存在しているのかを推定することができます。
このような複雑な媒質の中を伝わる波のエネルギーを表現する方法として、輻射伝達理論と呼ばれるものがあります。
輻射伝達理論によるモデリング
前置きが長くなりましたが、この本の中では、輻射伝達理論をどのように用いて地震波を表現するのか、特にモンテカルロ・シミュレーション法に着目して、数式やフローチャートを用いて解説しています。従来は不均質のスケールが小さい場合と大きい場合で分けて扱われてきた手法を統合したハイブリッド法によって、地震波エネルギーを正確に計算できることも示しています。
複雑な地震波の伝わり方に興味があったり、地震波を用いて構造や震源の解析をしている学生や研究者を主な対象とした本となっています。数式での記述は一般的なので、「波」を扱う他の分野の研究にも役立つ部分もあると期待しています。