九州大学 理学研究院 附属地震火山観測研究センター 松島 健
Changes in pressure sources below Iwo-yama, Kirishima, inferred from repeated precise leveling survey
MATSUSHIMA Takeshi : Institute of Seismology and Volcanology,
Faculty of Science, Kyushu University, Japan
1. はじめに
霧島火山地域においては,1968年に水準路線が東京大学地震研究所により設置され,その後何度か測定が行われてきており,硫黄山の収縮沈降現象が観測されていた(小山他,1991).
我々は2013年末からの硫黄山を含むえびの高原付近の火山活動の活発化や気象庁GPS基線長の伸び(2013年夏〜2014年8月)は新たなマグマ活動であると考え,このマグマ貫入に伴う地殻変動を詳細に把握するために,えびの高原付近の水準測量を実施した.
2011年の新燃岳の噴火直後から,北海道大学を中心として,えびの市〜えびの高原〜霧島新湯温泉の約25kmの区間で3回の水準測量が実施されていた(森他,2012) .我々は2015年6月にこの路線の一部のえびの高原付近〜霧島新湯三叉路間の約8km区間の再測定を実施するとともに,硫黄山方向に約2.5kmの路線を新設した.その後,硫黄山では火山性地震の群発や傾斜変動をともなう火山性微動がたびたび発生し,2015年12月中旬には地表に新たな噴気帯が生じ,2017年5月には火山泥の噴出が確認されている.その後噴気活動は一時沈降傾向になったが,2018年2月には火山性地震が増加し,噴気現象も再度活発になってきた.4月上旬から硫黄山の南側に沿って東西に新たな噴気孔列が生じ,一部で小噴火を発生させた.
我々はえびの高原〜硫黄山周辺において高頻度の繰り返し精密水準測量を実施して地殻変動を求め,硫黄山直下の圧力源の時間変化を推定した.
2. 水準測量の概要
本研究において水準測量を実施した路線の水準点を図1に示す.えびの三叉路から南側の新湯三叉路に延びる6.6kmの路線においても,2015年以降に2回の測量が行われているが,硫黄山の火山活動に起因すると思われる変化がほとんど出ていないため,本研究では硫黄山を東西に横断する硫黄山路線のみ高頻度に測定を行っている.
硫黄山路線の総延長は約5 kmである.この路線を2〜3日間で2班にて測量に当たった.2015年6月から2025年3月まで計27回の精密水準測量を実施している.
測量方法は,各水準点間の往復測量で,その往復差は一等水準測量の許容誤差を満たすようにした.
1 km当りの平均自乗誤差は、路線全体において±0.4 mm/km程度であり,高精度の一等水準測量を行うことができた.

3. 測量結果
我々が測定している,硫黄山路線の西端の水準点のBM1120を不動点(基準)とし,各水準点においける比高値を計算した.これを基準時期の比高値との差を取ることにより,その期間における地盤の上下変動を計算した.図2に2017年10月〜2018年12月までの硫黄山周辺の隆起量を示す.硫黄山を中心にしてほぼ同心円状に地盤が隆起していることがわかる.
2017年10月以降の主な水準測量結果を図3に示す.また主な水準点における隆起量の時間変化を図4に示す.いずれも2015年6月および,測線の西端のBM1120を基準としている.
2023年3月から1年間の隆起量を図1の等値線で示す.硫黄山山頂に近いBM3053で2024年3 月までに20.0 mmの隆起が見られる.


4. 地下圧力源の推定
測定された地殻変動量から地下圧力源の推定を行った.水準測量から得られた隆起量をみると硫黄山中心に放射状に滑らかに変化していることから圧力源は板状貫入(ダイク)型ではなく,単一の球状圧力源(Mogiモデル)で近似できると考え,その水平位置,深さ,体積変化量をグリッドサーチして,観測値と計算値の差の二乗和が最小になるパラメータを圧力源の最適値とした.計算の際には、観測点の標高を考慮にいれた標高補正Mogiモデル計算をおこなって,近似的に地形の影響を考慮した.解析には火山用地殻活動解析支援ソフトウェアMaGCAP-V(気象研究所地震火山研究部,2008)を用いた.
硫黄山の隆起域の中心は2018年3月の噴火前の2015年6月〜2017年10月までと,噴火時を含む2017年10月以降では,その水平位置が明らかに異なることから,2017年10月より前と後で別々に圧力源の位置(緯度経度深さ)の最適値を求めた.その値を表1に示す.2017年10月までの圧力源は図2に示すように硫黄山山頂部の東側の海抜600m(深さ700m)にあったと考えられるが,2017年10月以降の噴火活動期には圧力源は南西方向(硫黄山南火口付近)に約150m移動し,深さも80mほど浅くなったと推定された.
パラメータ推定において圧力源の深さと体積変化量は非常に相関が大きく,最適値の分離が難しいため,圧力源の位置を表1の値に固定し,体積変化量のみを推定し,その時間変化を求めた.その結果を図5に示す.
2015年夏から始まった圧力源の膨張は2017年には一端収縮に向かったが,2017年後半から再度急激な膨張が始まり,2018年4月には小噴火が発生した.2018年12月以降は,ほぼ停滞状態となっていたが,2023年3月は,35,000m3膨張現象が見られ,硫黄山南火口の地上現象も活発となった.

表1 推定された圧力源の位置
| 2017年10月以前 | 2017年10月以降 | |
|---|---|---|
| 北緯 | 31.946777 | 31.94517 |
| 東経 | 130.85460 | 130.853975 |
| 海抜高度 | 600 m | 680 m |

5. 考察
Tsukamoto et al. (2018) はMT観測により 硫黄山周辺の三次元比抵抗構造を推定しており(図6),硫黄山直下には深さ100〜700mに低比抵抗の層が釣り鐘状に広がっていることが分かっている.これらの低比抵抗層は,スメクタイト等の粘土鉱物によるものと考えられており,難透水層となっている.本研究で推定された圧力源はちょうどこの難帯水層の下面に存在しており,難帯水層がキャップロックの役目をなしていることが推測される.地下深部から上昇してきたマグマの揮発成分がこのキャップロックにトラップされ圧力源として膨張し,硫黄山周辺の隆起現象を発生させていると考えられる.またこの難帯水層の亀裂からマグマ揮発成分が一部上昇し,噴気や2018年3月の小噴火を発生させたと考えられる.

まとめ
硫黄山周辺で実施された精密水準測量により,霧島・硫黄山の地下約700mの地点に圧力源があり,現在もわずかながら膨張を続けていることがわかった.この圧力源は,電磁気探査から存在が明らかになった難透水層の下面に位置している.また2018年の噴火以降は,圧力源の位置が南南西に約190mの硫黄山南火口下へ移動し,深さも80m程度浅くなったことがわかった.干渉SARで観測された局所的な隆起圧力源と水準測量から求められた圧力源は深さが異なっており,硫黄山直下には複数の圧力源が存在していることがわかった.
霧島・硫黄山の火山活動を把握するためには,今後も精密水準測量を繰り返し実施し,圧力源の変化を監視することは重要である.
謝辞
本測量調査研究は,宮崎県・えびの市および環境省の理解と協力をもとに実施された.現地調査の際には,安全確保のために気象庁鹿児島地方気象台に火山活動監視を依頼した.今回使用した水準点の多くは東京大学地震研究所によって設置された基準点である.測量作業には著者以外に多くのメンバーが参加している.本研究の解析には気象研究所によって開発された火山用地殻変動解析ソフトウェアのMaGCAP-Vを使用した.本研究は文部科学省による「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト(JPJ005391)」および「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の援助をうけた.ここに記して感謝する.
参考文献
1)小山悦郎,山口 勝,増谷 文雄,辻 浩,鍵山 恒臣, 1991,霧島火山地域における水準測量,日本火山学会秋季大会,B06
2)森 済,大島 弘光,小山 悦郎,2012,霧島山北西部の上下変動(2011年2月-6月-2012年3月),日本地球惑星科学関連合同大会、 SVC50 P31
3)気象研究所地震火山研究部, 2008, 火山用地殻活動解析支援ソフトウェアの開発,気象研究所技術報告第53号「火山活動評価手法の開発研究」,123-140
4)Tsukamoto K., Aizawa K., Chiba K., Kanda W., Uyeshima M., Koyama T., Utsugi M., Seki K., and Kishita T., 2018, Three-dimensional resistivity structure of Iwo-yama volcano, Kirishima Volcanic Complex, Japan: Relationship to shallow seismicity, surface uplift, and a small phreatic eruption, Geophysical Research Letters, 45, 12821-12828.
